「さあ二人とも、俺の賭けに付き合ってもらうよ」「何をするの?」私と、私の中にいる邪悪はいった。ヨシュアちゃんは私に近づき、ギュッと体を抱きしめる。「俺は、あの頃から君のことが、フレイアのことが好きだった。俺は君のことを忘れない。だから、俺のことも忘れないでくれ。君にルビス様とミトラ神の御加護がありますように」ヨシュアちゃんは軽く、私の唇にキスをするとニッコリと微笑んだ。そして・・・「いかん! ヨシュアやめろ!」ユ−ロパ様が叫んだ。「ま、まさか!?」私の中の邪悪はいった。そして、ヨシュアちゃんは呪文を唱えた。「ヨシュアちゃん・・・」私は、ヨシュアちゃんの突然の告白に、頭がボ−として、そう呟いただけだった。「めがんて」ヨシュアちゃんがそう言うと、辺りは強烈な光に包まれた。「ギャァァァアアアア!!」私の中の邪悪が叫んだ。と同時に体が引き裂かれそうな痛みに襲われた。「!!」私は、余りの痛みに叫ぶこともできず、気を失った。夢を見ていた。それは遠く幼い日の、そして懐かしい想い出。幼い時、禁を破り村の外に出たことがあった。その時、私はバブルスライムに咬まれ、毒に侵されてしまった。気がつくと私は、ベッドに寝かされていた。そして、そこには大人たちの心配そうな顔と共に、泣きそうな顔のヨシュアちゃんがいた。ヨシュアちゃんは、気がついた私を見て、顔をグシャグシャにしながら微笑み、そして倒れた。話を聞くと、ヨシュアちゃんは大人たちの制止を振り切って、森に入り、毒消し草を取ってきてくれたらしい。私は、あの時のあの表情だけは決して忘れられない。そしてその時から、私はヨシュアちゃんに絶大なる信頼をおくようになった。・・・辺りが暗くなり、そして場面がかわる。「ねぇ、フレイア〜大人になったらぼくのお嫁さんになってくれる?」「うん。私、ヨシュアちゃんのお嫁さんになる!」「本当? 絶対だよ?」「うん!」夏の夕暮れ、私とヨシュアちゃんは二人して太い樹の枝の上に座っていた。優しい風が吹き、さわさわと木の葉が揺れる。空には星が瞬きはじめていた。大人が聞いたら笑うような幼い二人の約束。 私はあの時の約束を一日たりとて忘れたことはない。・・・また場面がかわった。「じゃあ、いくわ」ヨシュアちゃんがそういった。私はヨシュアちゃんに御守りを手に握らせて、「死んじゃ駄目よ。必ず生きて帰ってきて」と言っただけだった。本当はもっと言いたいことがあったのに・・・「いかないで」って言いたかったのに・・・・口からでた言葉は・・・その言葉にヨシュアちゃんは、「わかった。フレイアとの約束を、破るわけにはいかないからな」と言って笑っていた。「じゃ、約束よ」「ああ」別れの最後まで微笑んでいた私の顔は、ヨシュアちゃんが点になった時には、すでにつぶれていた。知らない間に、こらえていた物が吹き出していた。どこか遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。「・・ア・・・レイア・・・フレイア」「う−ん」私が目を開けると、ユ−ロパ様が心配そうに見つめていた。・・・どうやら私の中の邪悪はヨシュアちゃんがやっつけてくれたようだ。邪悪が同居していた時の、あの感覚はもう感じられない。「ユ−ロパ様・・・・ヨシュアちゃんは? ヨシュアちゃんはどうなったんですか?」ユ−ロパ様はゆっくりと頭を振った。「そんな・・・」ユ−ロパ様が何かいってるようだが、今の私にはそれを聴いている余裕は無かった。私は起き上がると辺りを見回した。私から少し離れたところに、ヨシュアちゃんは眠っていた。月明かりに抱かれるように・・・少なくとも私にはそう見えた。私はヨシュアちゃんに駆け寄った。「ヨシュアちゃん、起きて、起きてよ! 寝てるんでしょう?・・・」「ヨシュアちゃん目を覚まして 」私はおもいっきりヨシュアちゃんの体を揺さぶりながら叫んでいた。! 肩に手がおかれた。「フレイア・・・・」ユ−ロパ様はゆっくりと頭を振った。「ヨシュアちゃぁぁぁぁぁん!!!!」私はヨシュアちゃんの胸の上で泣いた。とにかく私は泣いていた。気がつくと、私はベットの上に寝かされていた。横にはユ−ロパ様がうつらうつらしていた。「ユ−ロパ様」「・・・・ん?・・・おお、フレイア、起きたか」「ヨシュアちゃんは・・・・」ユ−ロパ様はゆっくりと確かめるように言った。「・・・ヨシュアはおまえを守るために死んだ・・・ヨシュアは、おまえのことを愛していると言っておった。もし、今度のことが失敗したら命を懸けておまえを守るとも・・・・これは、シャンパ−ニにいく前に、あいつがわしに托した手紙じゃ。もしもの時におまえに渡してくれと・・・」私が封を破ると何かが布団の上に転がった。「・・・指輪」私はそれを手の中に握ると、彼のメッセ−ジを読み始めた。 ・・・・・・・・・・・・・あの時のヨシュアちゃんの言葉が思い出された。『・・・ごめんフレイア、あの時の約束は守れそうにないや。不甲斐ない俺を許してほしい。・・・ユ−ロパ様、あとのことはお願いします。俺には後始末できないから』あの時の言葉は、諦めじゃあなかったんだ。ヨシュアちゃんは命を賭けて私を・・・・・・・・・・こんなのって、こんなのって、こんなのってない!涙がこぼれた。一滴、二滴。そして・・・ ユ−ロパ様は黙って肩に手をおいてくれた。「うっううう」静かな部屋の中に、私の嗚咽だけがいつまでもいつまでも悲しく響いていた。