コンコン……とノックの音が聞こえた。
ベッドの上に寝そべっていた俺は誰かと思ってそっちの方に目を向ける。


「祐一……起きてる?」


ひょこっと頭だけを出したのは、舞だった。










KnocK










俺が起きている事を確認すると、トコトコと歩み寄ってベッドの隣の椅子に腰掛けた。


「……大丈夫?」
「全く問題ないぞ。松葉杖使えば動けるしな。」


そう、ここは病院である。
あの『魔物』との戦いで結構な怪我を負ったので、こうして入院しているわけだ。
右足が複雑骨折だとか聞かされたときはちょっと人ごとだと思っていたが。


「それに、午前中は喧しいのが来たからな。舞が来てくれるのは嬉しいぞ。」


午前中には、名雪と秋子さん……は良いとして、香里や北川が騒いでいった。
特に北川。


「そう……良かった。」


そう言うと舞は微笑む。
ここ最近の舞は表情がよく出るようになった。
と言っても、大きくじゃないけど。


「佐祐理さんの方はどうだった?」
「元気だった。」


そう言えば佐祐理さんはもうすぐ退院らしい。
俺は何時になったら退院できるのやら。全治は3ヶ月くらいかかるとか何とか。


「ところで舞、その包みは何だ?」
「……お弁当。」


お弁当?
何でそんな物をここに持ってきたのだろうか。


「一緒に食べようと思って、作ってきた。」
「……あれ? 舞って料理できたっけ?」
「……はちみつくまさん。」


ちょっと不機嫌そうに肯定する。
それにちょっと苦笑しながら、俺は松葉杖を手に取った。


「そっか。じゃあ、中庭にでもいくか?」
「祐一が良いなら、それで良い。」


舞に手を貸して貰って、立ち上がる。
流石に松葉杖には未だ慣れないが、何とかエレベーターを経由して中庭へと出た。


「意外……」
「ん、何が?」
「……こんなに動けること。」
「不死身なんだ。この骨折はリカバリーが間に合わなかっただけだ。」


俺がそう言うと舞は少し考え込んで……


「……女子寮の管理人?」
「見たこと有るのか?」
「面白かったから……」


舞の意外な一面を垣間見たような気がする。


「お、丁度ベンチがあいてるぞ。」


俺が腰を下ろすと、舞がすぐ隣に座る。
まあ、端から見れば恋人同士に見えないこともないだろう。
いや、恋人同士なのだけど。


「そう言えば舞は学校生活はどうだ?」
「?」
「ほら、俺と佐祐理さんが居なくて寂しい、だとか。」
「祐一……バカ?」


どういう訳か、いきなり舞にそんな辛辣な言葉を言われてしまった。
何か変なことでも言ったか?


「今日は平日。」
「……そういやそうだな。」
「……三年は自由登校。」


あ。
そう言えばそうだ。
三年は自由登校なんだな、卒業式までは……って。


「それはもう進路先が決まった奴だけだろ?」
「……決まってる。」
「え?」


舞が?
初めて知った。


「でも勉強できてないだろ。それに問題児とか言われてたんだから……」
「……大丈夫。私は大学じゃないから。」
「……と言うことは就職?」


こくんと頷く舞。
舞が就職ねぇ……


「ちなみに何処?」
「……MJF」
「エムジェイエフ?」


なんだそれは……初めて聴いた会社だ。
そんな会社、あったか?


「ちなみにそれ略称だよな?」
「はちみつくまさん。」
「正式名称は?」
ミナセジャムファクトリー……」


ちょっと待て、舞。
それはちょっとばかり早計だったかもしれないぞ……


「それより……」
「ん?」
「祐一の方はどうだったの?」


どうってのは……ここ最近のことか。


「そうだな……居候先の家族とか、クラスメイトとかが見舞いに来てくれていたから特に寂しいとは思ってなかったかな。」


まあ、喧しかったけどな。
特にアンテナとかアンテナとかアンテナとか。


「そう……」


でも、そう言ったもんだから舞は少し気落ちしていた。
だからフォロー代わりに。


「まあ、舞が来てくれたのが一番嬉しいけどな。」


その言葉で舞は一気に赤くなり、そして恒例の……チョップ。


「痛て! 少しは手加減しろ!」
「……十分手加減した。」
「あのなぁ……」


そうするといきなり舞があのランチボックスをベンチの上へと置いたのだ。


「……もうお昼。」


時計も見ていないのに何故解るのだろうか。
……と思っていたら。


「……なるほど。」
「?」
「腹時計か。」
「……ぽんぽこたぬきさん。」


赤くなっていっても説得力皆無だぞ、舞。
図星だったらしいな。


「……おぉ。」


ランチボックスから取り出される料理の数々は色鮮やかな物だった。
混ぜ物ご飯のおにぎりや、卵焼きやコロッケなど。


「これ位作れるなら、毎日自分で作れば良かったんじゃないか?」
「ぽんぽこたぬきさん。佐祐理のお弁当の方がおいしい。」


なるほど。一理あるかもしれない。
まあ、舞のを食べていないから解らないけど。


「それじゃ、遠慮無く食べさせて貰うとするか。」
「…………」


俺が混ぜ物ご飯のおにぎり(多分これはわかめ)を手にとって口に運ぶところをずっと見ている舞。
それを見ているとからかいたくなるが、ここはそれは御法度だろう。


「うん、うまい。佐祐理さんと同じくらいうまいぞ。」
「……よかった。」


かすかに微笑む。
そして舞も手にとって口に運び始めた。
その姿が妙に小動物っぽくてかわいいと思った。


「……どうしたの?」
「いや、少しだけ考え事。」


穏やかな風を感じながら恋人の手作りの弁当を食べる。
いいシチュエーションだな、と思うのだが、どうも右足のギプスが変な感じだ。


「……祐一。」
「ん?」
「ごめん。」


唐突な謝罪に俺は何のことかと思った。
でも、舞を見ると本当にすまなさそうな顔をしている。


「何で、謝るんだ?」
「私のせいで、怪我をしたから……」


そう言うことか。
だけど、舞は少し勘違いしている。


「あのな、舞。謝る事じゃないだろ。」
「……?」
「確かに“あれ”は舞の力だったけど、あの時は舞のじゃなかっただろ?」


舞は首を縦に振った。
それを見てから俺はさらに言葉を重ねる。


「それなら舞のせいじゃないし、元はと言えば俺が舞を信じなかったっていう出来事がある。」


そう、幼い頃の出来事。
舞が苦しんだ理由。


「だから舞が謝る必要なんて無いんだよ。」
「……祐一は、優しすぎる。」
「ああ。そうかもしれないな。」


苦笑した。
正にその通りだと、自分でも思ってしまったから。









「あ〜、食った食った。」


行儀悪かろうが満腹になったものはしょうがない。
ぐでっとだらけさせて貰おう。


「行儀悪い。」


そうすると突っ込みと同時にチョップが飛んでくるのだが。


「しょうがないだろ。満腹なんだからさ。」
「…………」


無言で睨んでくるが、俺だってこれだけは譲れない。
と思ったその時、自分の中に妙案が浮かんだ。


「じゃあ、寝させてくれ。」
「何処に……?」
「ここ。」


ポテ、と言う感じで倒れ込んだ先。
それは舞の足の上。


「……何しているの?」
「何って……膝枕だぞ?」


真上を見上げてその膝の持ち主を見る。
少しだけ、顔が赤くなっていた。


「……眠いの?」
「ああ。」
「じゃあ、いい。」


それ以降は何も言わず、俺を乗せていた。
そのうちに俺はウトウトしてきて……


「舞……」
「なに?」
「少し、眠る。」
「……分かった。」


その優しげな言葉にあわせて俺は目を瞑った。









「……足が痛い。」


舞が涙目でこっちを睨んできた。
俺もバツが悪いので何も言い返せない。


「人前ではもうやらない……」
「と言う事は、二人っきりならやってくれるのか?」


チョップの嵐。
顔を真っ赤にさせた恋人。
そんな日常を送れる事がたまらなく幸せに感じられた。


「……もう知らない。」
「え゛?」










あとがき


これで三度目となる今シリーズ。題はお弁当。

今回は「舞ルートにおいて祐一が本当は怪我をしていたら。」のイメージで舞で書かせて頂きました。

しかし、「舞=料理が出来る」と言うイメージは実際あるのでしょうか?

今回は出来るという事にしておきましたが、出来ないの方でも十分書けたような気がします。

……いや、そっちの方がよかったかも?(ぇ

まあ、公開(?)後先立たずという事で。




ところで、今回もネタを一つ組み込んでみました。

分かると思いますんで概要は割愛で。

舞が読んでたら……面白いには面白いかもなぁ……と思ったので。

いや、実際は八神自身が読み返していたからかもしれませんが。(汗




と言うわけでお疲れ様でした。

第五回も……でれたらいいなぁ、と思っています。

アハハハハ……(乾いた笑い)

でわ、八神でした。



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