ある日の昼下がり。
仰げば灰色の雲に覆われている空。強く吹く風。
そんな天気にも関わらず、眼下では今日も雪の丘で立ち尽くす男が一人。
男の名は相沢祐一。
先の冬に悲しい奇跡に巻き込まれた者。
祐一はあれからいつもこの丘で立っている。
何をやるまでもなく、ただ立ち尽くしている。
ただ、ただ待っている。
毎日、毎日。
ふいに、祐一は体を動かす。
何かと見てみれば、一人の少女が祐一に近づく。
そして、一言
「よお、天野」
視線だけを向けて、挨拶をする。
「こんにちは、相沢さん」
簡単な挨拶を返す少女。
この少女も、いつも、いつもこの丘に来ていた。
だから、この遣り取りもいつものこと。
いつもと同じ、変わり映えはしないこと。
そして、いつもと同じように少女は祐一の隣に立つ。
それで、いつもと同じ風景になる。
そう、いつもと変わらない、同じになる。
うつろう季節
マタヌキ
「なあ、天野」
「なんでしょうか、相沢さん」
十数分も眼下の彼らの街を見ていただろうか。
ただ、二人して佇んでいた最初の頃から変わったこと、街を見続けての交流、が始まる。
いつも、祐一から隣の少女に声を掛ける。
とはいえ、たまに少女から声を掛ける。だが、それは些細な違い。
少しずつ、二人で黙って街を見ている時間が少なくなったことに比べれば。
「お前、いつも同じだな」
「? 何を言っているんですか?」
少しずつ、ただの言葉の掛け合いから、会話になったことに比べれば。
「いや、お前はいつも同じ格好、制服だなと思って」
「……楽ですから」
強い風が吹く。
少女は、短いスカートと髪を抑える。
「楽?」
「はい。こうやっていれば、誰も気にしませんから」
・ ・
「なるほど。確かにそうしていれば、普通の女子高生だ」
「…………」
「…………」
「…………」
風が今度は弱く通り過ぎる。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「……悪かった」
「……特別なことなんかない。どこにでもいるただの高校生。そんな風に周りから見られるのが一番楽ですから」
「なるほど」
「確かに楽だな、関わりのない奴にしてみれば。それだけで何でもない者として一括りにできるからな」
「はい。そうしていれば誰も私に関わってきませんでした。ずっと……」
「ただの女子高生か……」
「はい……」
ふわっと白い精霊が目の前をよぎる。
「いつも見るのも飽きたな。ただの女子高生を見るのも……」
「学校行くのを辞められてはどうですか?」
戯れに少女が手を出して、白い精霊をつかまえようとする。
だが、とらえられない。
つかまえたと思っても、すぐに消えてしまうから。
「学校くらいは我慢する。それよりも、学校以外で制服見るのも飽きた」
「……考えておきます」
その言葉に祐一は初めて横の少女を見た。
だが、少女は手の上に残る、とらえられなかった精霊の名残を見つめたまま。
何も変わらない。
「……降り出したし、帰るか」
「……はい」
ふう、と一息ついて祐一はいつも通り切り出す。
そこから先はいつも通り。
精霊たちが踊り始める頃、二人の姿は徐々に消えていく。
同じぐらいの歩みで。共に。
やがて、二人の姿は同時に精霊たちの中に消え去る。
いつもと同じように。
春はいまだ来ず。
されど、遠からじ。
あとがき
予想以上に悩まされたお題でした。
とはいえ、やはり飾りだけの頭とはいえ、動かした分だけ作品は多少なりとも満足いくんだなぁ。と思いました。
たとえ、これが拙作の中で一番容量が小さかったりしても、満足すればよし、です。
ちなみに、視点はピロだったりしたりします。(なら、本文でにおわせるぐらいしろ)