夏も終わり残暑の欠片も過ぎ去り、この地方に取っては一年で最も過酷で長い季節の足音が聞こえてくる

そんな季節……つまりは秋。

 人によっては『読書』の、また人によっては『芸術』の、そして今この場に集う者達にとっては、まさに

『食欲』の秋。

 食堂に殺到する半ば殺気立った飢えた学生達を尻目に、購買で調達したパンとジュースを手に離脱する。

 向うは、校舎の屋上に続く階段。

 すでに卒業しているが、前例を作り上げた先輩達の後を継ぎ、

今日も親しい友人達と、昼食ついでにコミニュケーションを図る為、歩みを進める。

 目的地には、すでに自分以外の者達は揃っているようだった。

 「相沢、遅かったな」

 「おお、パンの入手に手間取ってな、皆待たせたな」

 そう級友に言って自分の為に用意された席に着き、横に座る従姉妹に手持ちのパンとジュースを手渡す。

 「ほれ名雪、イチゴロールと苺牛乳」

 「わ、ありがとう祐一」

 ほんわかとした笑顔で嬉しそうにパンを受け取る従姉妹を見ながら

 「ま、お前が買いに行ったんじゃ昼休みが終わっちまうからな」

 と、何時ものように軽口をたたく。

 そんなやり取りを尻目にもう一人の級友が

 「皆揃ったし、食べ始めましょうか」

 と音頭をとる。

 その言葉に級友の妹とその親友が弁当の包みを開いて行く。

 そんな何時もの昼食風景での会話だった。




    それぞれの弁当事情。





 「そう言えば、この面子だと弁当派とパン派が丁度同数だよな」

 暫くして何気なく北川が、パンを頬張りながら周囲を見渡して話題を振って来た。

 確かにこの階段の踊り場に集まった6人の内、俺と名雪と北川がパン派、香里と栞と天野が弁当派、

丁度、同数だった。

 「確かにそうだな、俺は言うまでも無く料理なんて出来ないし、名雪は朝が壊滅的だし……北川は?」

 そう云えば北川の昼食事情を聞いた事が無かったので、ついでに質問してみた。

 「俺が料理なんて出来る訳無いだろが、親も忙しいしな」

 と、半分他人事の様な口調で、俺と似たような答えが返ってきた。

 「ま、そうだな、何時もコンビニのパンだしな、ところで香里の分は栞が作ってるんだろ?」

 それを軽く流し、美坂姉妹に話を振ってみる。

 「そうね、あたしも偶には手伝ってるけど……」

 「結構朝弱いですからね、お姉ちゃん」

 珍しく歯切れ悪く答えた香里の語尾を、悪戯っぽい笑みを浮かべながら栞が引き継ぐ。

 その言葉が結構意外だったので、思わず香里の顔をマジマジと見てしまった。

 途端、言葉に詰り少し拗ねたような表情で「なによ、悪い?」と言いたそうな目で睨まれてしまった。

 「ま、まあ、弱いと言っても名雪ほどじゃ無いんだし……

栞も一時期凄まじい量の弁当作ってたんだから、二人分ぐらい如何って事無いだろうし」

 その普段見慣れない上目使いの不服顔に動揺して、脊髄反射的にフォローを入れてしまう。

 その言葉に反応した名雪と栞が不満の声を上げるが、周知の事実なので適当に相槌を打って済ませてしまう。

 まだ「う〜う〜」とか「えぅ〜」とか唸っているが何時もの事なのでスルーして、

今度は天野に質問を投げかけてみた。

 「天野は自分で弁当作ってるのか?」 

 口の中の咀嚼していた食べ物をこくんと飲み下し、

お茶を一口飲んでから口を開く天野に、なんと無く「らしさ」を感じて少し微笑みながら答えを待つ。

 「そうですね、私も自分で作ってます。とは言っても大半は夕食の余り物ですが」

 彼女は微笑まれている事に、釈然としない不思議そうな表情を浮かべながら答えるのだった。

 「なるほど、確かに朝から本格的な料理をするもの何だしな。でも、その答えは何だかおばさん臭いぞ」

 「失礼な、極一般的な生活の知恵ですよ、相沢さん」

 打てば響くような何時ものやり取りだったが、天野の目は笑っていなかった。

 「そ、そうだな、何と言うか、良い奥さんになれそうだな、天野は」

 内心で冷や汗をかきながら、つい慌ててフォローに走ってしまった。

 それも内心の動揺を隠す為に、すこぶる爽やかな笑顔付きで。

 「な、なにを……」

 その言葉に絶句して、酸欠の金魚の様に口をパクパクさせる天野の隣と自分の隣からステレオで怒声が響く。

 「祐一さん、天野さんばっかり誉めてずるいですよー」

 「祐一〜わたしだってやれば出来るんだよ〜」

 「無理だろ」

 「無理ね」

 「無理じゃないか? 水瀬さん」

 栞の不満は何時もの事なので置いといて、名雪の発言につい、三者三様に突っ込みを入れてしまった。

 「えぅ〜、私は無視ですか」

 「うぅ〜、じゃあわたし明日から祐一のお弁当作ってくるよ」

 栞が拗ねだして、名雪が実現不可能なプランの実行を宣言する、

香里と北川は「やれやれ、またか」と肩をすくめて笑っている、

天野は天野で口をパクパクさせたまま「そんな…私なんかが……」とか呟いている、

そんな穏やかに晴れた秋の日の、何時もの昼食時の一齣だった。






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