〜Men, Martians And Machines〜

「祐一ぃ!」

ドアの外から俺の名前が聞こえて来た。

聞こえて来たと思ったら、ノックも無しにドアが開かれた。

「……どうしたんだ?」

廊下で俺の名前を叫んでたのは真琴だった。

「大変、大変なのよ〜!」

真琴は焦っていた。

「どうしたんだ、火星人でも攻めて来たのか?」

「そうなのよ、火星人が攻めて来るの!」

いくらテーマが『火星』だからって、そんな安直な……

「これ見て!」

真琴はそう言うと、一冊の本を俺に差し出す。

それを受け取って、パラパラとページを開いてみた。

……胡散臭いSF漫画だった。

「これがどうしたんだ?」

「だから火星人が来るんだってばぁ!」

真琴は俺から本を引ったくりページをめくる。

「ここ読んで、ここ!」

そのページによると、火星人は遥か昔、火星から巨大な宇宙船で旅だったのだという。

宇宙を航海しながら居住出来る星を探している……らしい。

そして、火星人は水の惑星である地球に目を付けたとか。

「こんな下らない事を本気にしたのか?」

「下らなく無いわよ!喜林さんも言ってるじゃない!」

「誰だそれは!」

確かにその漫画には説得力があった。

実在の組織が調査しているらしく、様々な考察や理論、データ等で構成されている。

もっとも、それは相手が小学生や中学生だったらの話しだが。

「だから早く逃げなくちゃ!」

そう言う真琴の口調は強かった。

「逃げるって……何処に?」

「サイドスリー!」

……ジーク・ジオン!

夕食時。

ここでもマコピーは暴走していた。

「だから、火星人が攻めてくるんだってばぁ〜!」

火星人の恐怖を名雪に訴えている。

「真琴大丈夫だよ、火星人さんが来たらお友達になれるよ」

「だ〜か〜ら〜!侵略されるんだってばぁ!」

しかし名雪に恐怖は伝わっていないようだ。

「もし火星人さんがうちへ来たら、ジャムでお持て成ししなくてはいけませんね」

と、秋子さん。

もし地球が火星人に支配されても、水瀬家だけは大丈夫だろう。

……絶対に。

そろそろ日付が変わろうとしている。

宿題も終え風呂にも入り、あとは寝るだけ。

ベッドの中に潜り込み、眠気に身を任せる。

眠りはすぐに訪れた。

……どれくらい眠ったのだろうか?

部屋の隅から聞こえる物音に反応し、俺は目を覚ました。

そんな物音で目を覚ましたのなら、きっと浅い眠りだったのだろう。

人の気配を感じる。

この部屋に誰かいる。

そいつはひっそりと、俺に向かって来ている。

「真琴ぉ!見つけたぞ!」

俺は布団から跳ね起き、声を張り上げる。

「きゃああああああああああ!」

そいつは鼓膜が破れるかと思う程の悲鳴を上げた。

電気を付け悲鳴の発信源を見る。

案の定、俺の部屋に侵入していたのは真琴だった。

「……何やってんだよ?」

「あぅ〜」

真琴は力無くそう呟いた。

床にペタット座りこんでいる。

「まさか、また悪戯か?」

以前は毎晩のように行われた攻防戦も、ここ最近はご無沙汰だった。

「悪戯じゃないわよ、復習よ!」

「お前、それ字違うからな」

正しくは『復讐』だ!

「ほら、帰れ帰れ!」

俺は真琴を部屋から追い出す。

しかし真琴は一向に部屋から出て行かない。

ドアの前に立ち、モジモジとしている。

「何やってんだよ?」

「なっ、なんでもないわよ!」

俺はふと、夕方見たSF漫画を思い出す。

「もしかして……怖いのか?」

「……!?」

真琴の反応を見れば分かる。

……図星だ。

「そっ、そんな分けないじゃない!」

「そっか、じゃあおやすみ」

俺はそう言うと、電気を消そうと手を伸ばす。

「まっ、待って!」

「……なんだよ」

「……」

真琴は無言で俯く。

さて、どうしたものか。

真琴は結構マジで怖がっているみたいだ。

たかが火星人……いや、喜林(?)ごときに……

どうやら俺の中にちょっとした『悪戯心』が芽生えたようだ。

いや、これは『意地悪』というべきか。

「真琴、怖く無いなら早く部屋に戻れよ」

「……」

全く、怖いなら名雪や秋子さんの所へ行けば良いのに。

あの二人なら一緒に寝てくれるだろう。

なんたって俺の所に……

「そんなに怖がってちゃ、火星人が来たとき速攻食われちまうな」

「こっ、怖がってなんかないわよ!」

「じゃあ、早く帰れよ」

「あぅ〜」

俺は以前のお返しにと、更に追い討ちを掛ける。

「火星人が来たらお前は速攻食われちまうぞ!」

「いやぁ、やめてよ!」

真琴の口調が荒くなった。

全く、たかが漫画ごときにどうしてこんなになれるのか……

「火星人は怖いぞ〜頭からバリバリと食うんだ」

「いやっ、いやっ!」

真琴は耳を塞ぎ、目を閉じている。

それでも俺の声は十分に聞こえてるみたいだ。

俺はとどめにと、大声を張り上げる。

「火星人が来るぞー!?」

もはや自分でも思う。

……下らないと。

「大丈夫だもん!大丈夫だもん!火星人が来たって、祐一が助けてくれるもんっ!」

「……」

……俺は思わず赤面してしまった。

真琴が俺の所に来た理由が分かったような気がする。

「……」

真琴は何も分かっていないみたいだ。

キョトンと俺を見詰める。

自分がトンでもなく恥ずかしい事を口走ったというのに。

「あっ!」

気付いたみたいだ。

「あぅ〜」

涙目で、顔を真っ赤にしている。

恥ずかしさに耐えているのだろう。

……俺だって恥ずかしい。

「無しっ!今の無しっ!やり直しを要求する!」

「わけ分かんねえって」

「祐一ぃ、ちゃんといる?」

「ああ、いるからとっとと寝ろ」

その後、俺は真琴の部屋の前に座っていた。

真琴が俺を必要としてくれるなら、まあいいか。

名雪や秋子さんみたいに添い寝してやる事は出来ない。

でも、俺にだって出来る事はある。

「……」

「無駄に台詞出してないでとっとと寝ろ!」

しばらくすると、部屋の中から静かな寝息が聞こえて来た。

俺はつい苦笑してしまった。

昔を思い出したからだ。

何の事は無い、俺も昔似たような経験をした事がある。

もっとも、小学生の頃の話しだが。

翌朝。

真琴は布団から起き上がり、部屋を見回す。

……良かった、まだ火星人は来て無い。

真琴が目覚めたのを見ると、部屋の隅にいたピロが嬉しそうに寄って来た。

「ピロおはよ〜。よかったね、火星人は来なかったよ」

「うな〜」

ドアを開けると、真琴は驚き跳び上がった。

ドアの横に誰かが座っていた。

「……祐一?」

そこにいたのは祐一だった。

ドアの横に座り込み、静かな寝息をたてていた。

「祐一もしかして、ずっとここにいたの?」

勿論、眠っている祐一に返事は無い。

「祐一、ありがとう……」

そう言うと、真琴は部屋から毛布を持ってきて、祐一の体にそっと掛けた。

そして、頬にそっと口付けをした。

後日談。

「ところで、あのけったいな漫画は何処で買ったんだ?」

「あぅ?買ったんじゃ無いよ、借りたんだよ」

「……誰に?」

「美汐!」

「……」

〜Fin〜

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