夢を乗せて走る車道
 明日への旅
  通りすぎる街の色
   思い出の日々

恋心何故に切なく
 胸の奥に迫る...

――サザンオールスターズ『希望の轍』より



  Oh my , oh yeah...





「そういえば、香里の夢ってなんなんだ?」

目の前の少年の唐突な投げかけに、途中だった食事が止まる。
はて、話してなかったかな?と思ったわけではなかった。

「香里はお医者さんになるんだよねぇ〜」

のんびりとした親友の声がこれまでの本心たてまえを伝えてくれていた。
ピクッと少年が眉を動かしたのは、きっとそう思わせていて理由に思い当たったからだろう。



――偽りの心は人の身には重過ぎるもの



「否定はしないわよ」

さて、一帯誰に言った言葉なのだろうか。
どの言葉に返したものなのだろうか、親友は自分の言葉に返したと判断してくれたようだった。

「あ、っていうことは香里は医学部を受けるの?」
「……評定は足りてるわよ」
「まぁ、美坂だしな」

実際、医学部だろうが工学部だろうが、受験して受からないなど考えてもいなかった。
過剰な自信ではなく、これまでに裏づけされた明確な力として判断している。

「でも、まだ色々選択肢はあるんだから、もう少し迷ってるわよ」
「うん、そうだね。学部が決まってもどこを受けるかもあるし」



――いつの間に、こんなに汚くなっていたんだろう



「そういう相沢君の夢はなんなの?」
「……俺?」
「そ、あなたよ」

話に混じらず、別のところへと意識を飛ばしていたのか。
目の前の少年は一瞬迷った末、きっぱりとこう言い放っていた。



――汚れは重さを増して私を押し付けてくる



「AV男優」
「「「………」」」

本気で言っていたのだろうか。
頭が痛くなった。そしてそれ以上に周囲の視線が痛かった。

「……いや、さす」
「祐一、見損なったよ」
「いや、だか……」
「相沢、いくらなんでも、そりゃねぇだろ」
「や、だからじょうだ……」
「……変態」

私のその一言で、沈黙。
そして撃沈を喰らうのは、そんなバカな事を言った本人である。

「うぐっ……」

うめきながら頭を抱えている奴を尻目に、立ち上がる。



――心が潰れる。悩みは汚れをも取り込んでしまったのか



「なんだ、帰るのか?」

そう言ったのは日直の相棒である、アンテナの少年だった。

「女の子にそういうことを聞くんじゃないの」
「む、逃げるか」
「当たり前じゃない」

アンテナと何度か交信して、その場を離れる。
そして[Toilet]と彫られた板の下がっている扉をあけると、すぐさま洗面台の前に立つ。



――鏡に映るのは汚れきった魔女



「……魔法を使えるだけ、魔女の方がましか」

これまでの人生、とにかく医者になる事だけを目指していた。
何か近道があるわけじゃないから、要するに集中して勉強ばかりしていた。
夢は固定されていた。それは夢というのも申し訳ない、借り物の。
目指す星は動かない。それは何よりも楽だった。
自ら考えた事もなかったし、考えないようにしていた。



――魔女の顔が苦しそうに笑っていた



罪悪感からだったのだろうか。
最初は単に妹想いの姉心だったはずであった。
気が付けば身動きが取れないほど、それは体に取り憑いてしまっていた。
だから、それに任せていれば何も考えずにすんだ。



――魔女の顔が涙で濡れていた



結局は逃げていただけ。
そんな事、当の昔に気が付いていた。
先々月、栞が誕生日を越えて快調してきた時とか。
名雪に泣きついて、全てを話したはずの雪の日とか。



――魔女の中身は空っぽだった



あけてみれば夢なんてなかった。
自分から望んで手に入るものなんて、今までなかったから。
夢なんて見ないようにしていた、奇蹟は起こらないとずっと否定していた。
あけるまで気付かなかったなんて、何て馬鹿な話だろうか。



――その魔女は泣いていた
   涙は水銀のように毒だけを与えて
    過去の日々は嘘
     ただの一つも本当はなかった
      常に独り、涙を流し毒に酔う
       故に人生に望みはなく
        きっと生きている実感もなかった――




「………」
「か・お・りぃ〜〜〜♪」
「……名雪」

首筋に抱きついてきたのは、親友。
純白の笑顔を振りまく、私と正反対の少女。



――それはアガペーを語る天使の様で



「もしかして……泣いてた?」
「そう見える?」

いや、見えないはずがなかった。
実際に泣いていたのだと思う。
もう、自分でも判別付かないほど顔は水で濡れていた。

「うん……きっと泣いてたんだわ」
「……香里?」
「昔から、ずっとずっと」

栞ちゃんのこと、と問う名雪に少し首を振って答える。



――それは懺悔を聞くシスターの様で



「じゃあ、きっと祐一と同じだ」
「……どういう?」
「昔ね……死んじゃったんだよ、好きだった子が」

空気が一瞬にして緊迫した。
それを口にする彼女は悲しげで



――それは懺悔をする咎人のようで



「ううん、正確には死んでいないんだけど、祐一にしてはそれと大差なかった」

それは名雪にしても痛い思い出なんだろう。
語る彼女の肩も、少し震えているように思えた。

「その時は祐一、酷く落ち込んじゃって……励まそうとしたんだけど、私じゃダメだったんだ」

私は名雪が抱いている想いを知っている。
そして、今相沢君が抱いている想いも知っている。

「7年ぶりに帰ってきた祐一は、その頃のこと、すっかり忘れてた。きっと辛かったんだと思う」
「……からっぽだったの?」
「うん……からっぽっていうか、胸に孔の開いた人形みたいだった」



――それは全てを受け入れた人間の少女のようで



「あとは香里も知っている通りだよ。その孔は栞ちゃんで半分以上埋められたの」

それでもまだ少し、きっと埋まらない孔が開き続けてるんだ。と、名雪は哀しそうに言った。

「別にどうしなさいって言うわけじゃないよ?だけどね、知っておいて欲しかったんだよ、香里には」
「……ねぇ、名雪?」

そんな事を語った、彼女に一つ聞きたい事があった。

「なに?」
「私……私にも夢って見つけられるかな?」

きっと涙声になっていたと思う。
だけど、そんな事意にも介さず、親友は天使のような笑みを浮かべて……

「大丈夫だよ、だって、香里だもん」

その根拠のない理由で私に平穏をくれた。



――そしてそれは、私を救う女神さまだった

















時間は深夜、いや、日付を越えたから未明というべきか。
春とはいえ、夜の空気は冬のそれと大差がなかった。

「ねぇ、栞。あなたの夢って何?」
「画家です」

春の空、そこに輝く星達は冬のそれとは違う、英雄たちを示していた。
その中にいくつか、星座のそれとは違う星が混じっている。

「また……怖い事を即答するわね」
「うぅ……そんな事いう人嫌いです」
「まぁ、いいけどね。これから上手くなればいいんだし」

迷い星、特にあの一際赤いのは火星だろう。
そういえば、数百年だか数千年ぶりに大接近したって言っていた。
金髪アンテナの彼は火星儀なるものを購入したって学校に持ってきていた。

「むぅ……それじゃあ、お姉ちゃんの夢はなんなんですか?」
「ないわよ、そんなもの」
「えっ!?」

今の私はいわば迷い星。
行く先を定められず、どこにたどり着けばいいのか、どう歩けばいいのか分からずにいる。

「あら、なくちゃいけないって物でもないでしょう?」
「そ、そうだけど……」
「それに、今の私にはまだ無くてもいいものだと思うわ」

それでも引っ張って行ってくれる人がいる。
こんな私に引っ張られてくれる人もいる。



――魔女は常に独り、涙を流し過去を去る



「ないものはないの。だけど、それさえ分かればなんとでもなるでしょう?」
「……えっと?」
「失くし物はあなたならどうする?」

なら、顔をあげて共に走ろう。
責任を負い、責任を分かち、走り続けよう。



――ならば、人生に望みは出でて



「分かった?私は探し物をしに行くの」

迷い星は常に独り、その道を行く。
されど、惑星が惑星足るのは太陽があってこそ。



――世界に人生という轍を残すだろう



「むぅ、難しいですね」
「あなたの夢ほどじゃないわよ」

軽口を叩き合いながら、私の太陽はにこやかに微笑んでいた。
その笑顔は何よりも心に優しく......



――魔女が魔女たるは魔法を持つ故に



あぁ、この子には一生叶わないな。
そう思える、笑顔だった。



――そして魔法は初めて齎す、心からの笑顔と言の葉を



「栞、二ヶ月遅れだけど、誕生日おめでとう。それと退院も」







    Oh my , oh yeah...
Let me run for today...





あとがき

まず最初に、ごめんなさいm(_ _)m
いや、これ『火星』としてどうなのよ?
なら出すなって?
恥知らずでスミマセンm(_ _)m
というわけで、疾風です。


とりあえず、「火星」と聞いて、「夢」を連想してしまったのでこういう結果に。
私にとって火星とはそういう場所なのですっ!!(ぉ
宇宙そらには夢がある」(某牧師風に


ちなみに香里の太陽→栞
香里の衛星→北川 ほか(ぉ



ではでは、またのご機会に。


会場