丸い丸い月が明るく地上をを照らしている。
 時折吹く風が、ボクの髪を優しくなびかせ、通り抜けていく。
 今日は満月の日。ボクは祐一君を誘って、公園に来ている。
 もちろん、満月を見に来るため。ちょっと肌寒いけど、祐一君と一緒なら大丈夫♪
 どんな暗闇でも、どんな所でも、ボクは祐一君と一緒だったらやっていける自信がある。
 何か、恥ずかしいこと言ってるね。あっ、でも口には出してないから、思ってる、かな。
 今のボクは祐一君にどう映ってるんだろ? やっぱり顔が紅く染まっていると思う。
 そういえば祐一君はどうしてるんだろう? ボクと同じように月を見ながらいろんなことを考えてるのかな。
 思うが否や、ボクはチラッと横を見た。ボクの目に映ったのは目を瞑った祐一君の姿。
 もしかして……寝てる? ううん、そんなことないよね。たぶん……
 ボクはちょっと不安になる。祐一君なら寝てるってことは充分考えられたから。
 どうすればいいのかなぁ……う〜ん。
 こんなことなら、秋子さんにあのジャムでも借りてくればよかった。
 あのジャムなら、誰だってすぐ起きると思うし……だって、あの名雪さんですら起きるからね。
 何か、自分で言ってて味思い出してきちゃった……
 秋子さんの料理はどれもおいしいけど、あのジャムだけはちょっとね。
 本当にどうしよう。普通に声かければいい気がするけど。
 なんて声かければいいか思いつかないし、それに別に声をかけるほどじゃないと思うし……
 でも、寝てるかどうか気になるし……う〜ん、本当にどうしよう。
 あっ、いいこと思いついた♪
 ボクは作戦実行のために、座っていたベンチから立ち上がった。








「未来へのメロディー」











「何だあゆ? どうかしたか?」
 ボクが立ち上がってすぐに祐一君が反応があったってことは、起きてたってことだよね。
 うん。我ながらいいアイディアだよね。反応があったら起きてるってことだし、反応が無かったら寝てるってこと。
 今回の場合前者だから起きてるってことだし、こんなこと思いつくのボクくらいだよ♪
「お〜い、あゆ。聞いてるか〜?」
 祐一君がさっきよりも大きな声で呼んでくる。顔には、はてなマークが浮かんでいるようだった。
 いきなり立ち上がったから、驚いてるみたい。でも、ボクはすぐに我に返る。
「えっ、う、うん。も、もちろん聞いてるよ」
 いけない、すっかり呼ばれていたこと忘れてた。
 自分の考えにちょっと浸りすぎてたかな。
 ちょっとまずいかな。ボクはちょっと額に汗を掻き始めている。
「ふ〜ん。……じゃあ俺が何て言ってたか言ってみ」
 少し間をおいて、意地悪っぽく祐一君が言ってくる。
 うう、そう言われてもボクわからないのに。
「うぐぅ……」
 ボクは口癖である言葉で誤魔化すことにした。
 たぶん無駄だと思うけど、何も言わないよりはマシだと思うから。
 うぐぅ、何か嫌な予感がするよ。でもこの後ボクの予想は現実のことになる。
「そうか、あゆは嘘をついたのか。全く、嘘をついたらいけないって習わなかったのか?」
 祐一君は更に意地悪っぽく、顔に笑みを浮かばせながら言った。
「まあ、嘘をついたんだからそれなりのお仕置きが必要だな」
 うぐぅ、お仕置きは嫌だよ。絶対にやだよ。
 これだけは何とかして阻止しないと。ボクは頭をフル回転させる。
 さっきのようにいいアイディアは出てこない。
 このままじゃお仕置きされちゃう。焦れば焦るほど頭は混乱し、だめになっていく。
 そして、知らず知らずのうちの涙目になっていく自分がいた。
「ヒック、ヒック……お仕置きは嫌だよ」
 目から涙が頬を伝って流れ始め、だんだんと勢いを増していく。
 そんなボクを見た祐一君はちょっと戸惑いながらもボクのことをそっと抱きしめた。








 ボクにはどのくらいの時間が経ったかわからない。もちろん、公園なんだから時計はあると思う。
 でも、ボクはそれを見ようとは思わなかった。今のボクには時間なんてどうでもよかったから。
 ボクは今、祐一君と手をつなぎながら、一緒に夜空を見上げている。
 あの後、ボクは祐一君に泣き止むまで抱きしめられていた。
 安心したボクは、時が経つのも忘れて泣いていた。
 遠い昔の話。ボクのお父さんとお母さんが生きていた頃の話。
 小さい頃、いたずらをしたボクにお父さんとお母さんがボクにしたこと。
 それは、昔から伝わると言うお仕置きの話だった。それ以来、ボクはいたずらをしなくなった。
 お父さんとお母さんに聞いた話はもう思い出したくない。
 だって、それはものすごく怖い話だったから。だからお仕置きという言葉は今でも嫌い。
 ボクが泣き出した理由もそれが原因。
 祐一君にも何でかは秘密だけど、お仕置きと言う単語は言わないように頼んでおいたからもう大丈夫かな。
 泣いた直後の祐一君は、とっても困った顔をしてた気がする。
 でも、すぐにボクのことを気遣ってくれた。今思うと、ボクって困った子なのかも知れないね。
 すぐ泣いて祐一君を困らせたり、祐一君に甘えてばかりいる。
 遠い遠い海の向こうを思い浮かべる。ボクはそこで一人で暮らしていて、周りには誰もいない。
 たぶん今のボクじゃあ出来ないと思う。優しさを、愛というのを知ってしまったから。
 この想いはもうどうすることも出来ない。止めようとしても、止められない。
 もう一度伝えたい。この湧き出てくる溢れるばかりのボクの気持ちを、祐一君のもとへ。
「祐一君、起きてる?」
 先ほどとは違い、ボクは小声で話しかける。
 隣で空を見上げていた祐一君がボクの方を見ながら答えた。
「もちろん起きてるぞ。もう大丈夫か?」
 大丈夫、とボクは答えて一呼吸する。
 だんだんと冷えてきている空気は、ちょっと冷たかった。
「さっきは本当に悪かった」
 祐一君が何度目かわからない謝罪の言葉を口にする。
 ボクこそ急に泣き出してごめんね。
 そう言おうとしたけど、ボクはその言葉が出なかった。
 いや、出せなかった。そんなことを言うために呼んだんじゃない。
 ボクの心がそう訴えてくる。うん、そうだよね。
 そのためにボクは声をかけたんだ。謝るためじゃないよ。
 自分の気持ちを伝えるんだ。ボクは体中から勇気を振り絞る。
「祐一君。大好きだよ」
 たった二言かも知れない。だけど、この二言にはいろんな想いがこもっている。
 誰がどんなに多くの言葉を言っても、伝えたとしてもこの言葉には勝てないとボクは言い切れる。
 想いの強さが違うから……こめられてる想いの強さが違うから。
 昔のボクではわからなかったかもしれない。今のボクでも良くはわからないかもしれない。
 誰でも知っているかもしれない。誰でも知らないかもしれない。
 どんな言葉でも言い表すことの出来ないそれを。
 そう、言葉なんて要らない。だって、言い表せないんだから。
 祐一君にもそれがわかってると思う。全て同じ思いまでとは行かないかも知れない。
 それでも、ボクと祐一君の心は通い合ってる、そんな気がするから。
 だから、おのずとボクはこの先の展開を、祐一君の取る行動に期待してたりする。
 そんなことを考えてると、祐一君がボクの方に優しく手をかけてきた。
 ゆっくりと、ゆっくりとボクと祐一君の距離は近くなっていき……
 ボクと祐一君の唇が触れた。そして、何も言わずに祐一くんはボクの背中に手をまわしてくる。
 それを拒否することなく、ボクも祐一君の背中に手をまわす。
 時間が経つのも、周囲の目も気にせずに、ボクと祐一くんはそのままの状態でいた。









「しかしあれだな。意外だったぞ。急にあゆがあんなこというとはな」
 そう言われると、ボクは恥ずかしくなる。
 うぐぅ、祐一君いつものことだけどボクの反応楽しんでるよ。
「ふんだ、もう一生言ってあげないもん」
 ボクはせめてもの抵抗をしてみる。これで祐一君も少しは困るはずだよ。
 こんなこと言うなんて滅多に無いんだから。
「別にいいさ。俺が何時でも言ってやる。例えあゆがなんと言おうとな」
 えっ、今何て言ってた……ボクの聞き間違いじゃないよね。
 今祐一君、確かに何時でも言ってくれるて言ってた。
 じゃあ今すぐでも、どんな所で言ってくれるんだ。
「本当に?」
 一応ボクは確かめる。祐一君のこと信用してないわけじゃないけど、念のためにね。
「ああ本当だ」
 祐一くんははっきりと答えてくれた。
 ボクはもう一度聞き返そうとしたけど、それじゃあきりがないように思えたから止める。
 ひときわ大きな風が、公園に吹き抜ける。何かの前兆であるかのように。
「見てみろよ、あゆ。あの月の隣辺りを」
 祐一くんは指を指しながら突然言った。ボクがその方向を見てみると赤い点のようなものが見えた。
 点はだんだんと時間が経つにつれて大きくなっていく。
 満月に負けるかというように、赤い丸が大きく空に現れた。いつの間にか公園には、たくさんの人がそれを見に来ていた。
「祐一君、あれは何て言う星なのかな?」
 こんな時期に、星がこんな風に見えるなんてボクはニュースでも聞いたことがなかった。
 もしかして、天変地異でも起こるのだろうか、とボクは考える。
 そうだとしたら、最後まで祐一君の隣にいたいな。
 あれこれ考えていたのか、祐一君がやっと答えてくれた。
「う〜ん、そうだなぁ……俺達のことを祝福するためにわざわざ出てきてくれた、素敵なお星様かもしれないな」
 赤い光が地上を照らす。月の光と混じって、幻想的な光景を繰り広げている。
 そうかもしれない、とボクは祐一君の言ったことに対して思った。
 今までこんな不思議な光景を見たことがボクはない。
 ボクと祐一君は、その幻想的な光を照らし出している赤い星を、言葉を交わさずにずっと見続けた。







 次の日、ニュースを見ていたボクに、面白いニュースが飛び込んでくる。
「次のニュースです。昨夜見られた赤い月ですが、火星であることが判明しました。
火星がここまで大接近したのは初めてであり、また火星の接近はだいぶ先であることから……」
 そうか、昨日祐一君と見たのは見たのは火星だったんだね。
 ボクはニュースキャスターの声も上の空で綺麗な月と並んだ火星を思い出す。
 その光景は鮮明に思い出すことが出来た。
 公園のベンチから見えた、綺麗な赤い月。厳密には月じゃないけど月のような星。
 今思うと、あれはボクたちへの祝福だったのかもしれないね。
 ボクの心には、ずっと残っていると思う。ずっと、ずっとこの先も。
 せめて祐一君との未来へのメロディーをボクはお返しとして奏でていこうと思う。
 音としては鳴ることのない、永遠に奏でていくメロディーを―――


 終わり




 あとがき


 えっと、第二回目となる参加なのですが、如何せん書き始めるのが遅くこのような話に。
 今回の話を書くキッカケは最近異常気象とかが多いなぁと思ったのがキッカケです。
 だから火星の超超大接近もありかなと思いまして。
 もう一つ考えていたのは、落火星(落花生とかけるみたいな)というのですが。
 どっちかというと、そっちの方がある意味凄いのですが
 とりあえず、十五年〜十七年おきに大接近する火星。
 それをいかに使うか悩んだのですが、いきなり超超大接近したと言う事にしてみました。
 異常事態はいつ起こるかわからないので? ああ何か無理やりすぎ……反省点がいっぱいですね。
 Kanonの世界観壊さずにいこうとしたのですが。
 やっぱり壊さずに火星を出すのは難しいですね。もう一個の方は間違いなく壊してますし。
 このSSも何か壊れてる感じがしますしね。
 何はともあれ、間に合ってよかったです。また次回も参加したいですね。
 最後に……自分は参加する際はあゆのみとだけ述べて、あとがきを終えたいと思います。


会場