<真琴の復讐>
俺の名前は、相沢祐一・・・
おばの、水瀬秋子さんの家に、家庭の事情で身をよせている。
従妹の名雪とあこがれのおばさんである秋子さんと俺の三人の暮らしだった。
同い年の名雪・・・ちょっと照れるかな、と思ったのだが幼馴染でもあったので
大した抵抗もなく、三人暮らしに入る事が出来た。
で・・・ここでまた一人、人数が増えてしまった。
俺を仇と狙う、自称「沢渡真琴」という自称「記憶喪失娘」だ。
髪の毛を両ポニーテールにしていて、ちょっとキツい目元にGジャン、
商店街で俺に突っかかって来たが、その場で座り込んでしまった。
周囲の視線は、俺を悪者扱いしていたので、やむなく水瀬家に連れ帰った。
秋子さんも、名雪も「おおきな、おでん種」とか言って、ずるずるとそのまま、
この小娘は水瀬家に居着いてしまったのである。
そして、俺の落ち着かない夜が始まった。
俺の就寝時刻あたりになると、足音を忍ばせて沢渡真琴が来るのだ。
別に、俺を慕って抱かれに来るのではない。嫌がらせに来るわけだ。
俺はまず、ベッドにもぐる。このあたりは、俺の出身地より寒い。極寒だ。
もっとも、両親の赴任したスワヒリ語を話す暑い所に行くよりはマシだろう。
日本語が通じるし、秋子さんはよくしてくれる、名雪はのんびりだし。
そうそう、真琴は商店街で「あなただけは許さない!」「まちがいないんだから!」とか、
わめいて喧嘩をふっかけて来たのだが、なぜ一つ屋根の下にいるんだろうか?
今夜も、廊下を真琴の押し殺したつもりの、しっかり聴こえる含み笑いがやって来るのか。
たしか、始めの頃から思い返すと、こんな感じだった。
寝ている俺の顔に、こんにゃくをペタペタとつけて驚かそうとした。
それから、やきそばを顔に落として、困らせようとしたり。
食料が絡むときは、それを調理して真琴に食べさせる事が多い。
ある種、食べ物を粗末にするヤツへの見事な懲罰と言えるだろうな。
しかしなんと言うか、復讐というにはあまりにあどけないというか、無意味だ。
ただ、水を入れて使用する燻煙式の殺虫剤を仕掛けられた時は、困った。
廊下にいる真琴に、殺虫剤を投げ渡したんだったかな。
どーでも良いのだが、無邪気なイタズラにしても、度重なると、イライラする。
先日は、ネズミ花火に点火して、部屋に放り込みやがったので、花火が回転を始める前に、
素早く真琴のいる廊下にネズミ花火を投げ返した。
あの時は秋子さんが家主の一声、
「真琴、花火がしたかったの?夏にしましょうね」
と注意をうながし、
「それに、この時刻だとご近所に迷惑をかけるでしょう?」
で一件落着だったっけ。
見事に、収拾がつくあたり、かなわないよなぁ、秋子さんには・・・
で、今夜は何だろう?
沢渡真琴と自称する少女の俺への復讐・・・
俺は今夜も寝たフリをしてじっとしている。
というか、寒いのだ。布団にもぐりこんでいるのが正解だ。
それなのに・・・真琴の声と足音が、廊下から聞こえて来た。
あー、うざったい。
勘弁してくれ。俺は寝たい。寝たいのだ。寒いから、暖かく寝たいのだ。
幸せに寝たいだけなのに、邪魔はやめてくれ。
しかし・・・容赦なく(他愛ない内容だが)復讐の小娘は来る。
「ふっふっふ。祐一、覚悟ぉ!今夜は火星からの攻撃よ・・・」
という小さな声がハッキリと聞こえる。とことこ、という足音とともに。
黙って来ればまだしも、なのになぁ・・・足音にも注意しろよ。
キィイィと、きしむ音がして、部屋の扉が少し開く・・・
そして、今まで何度もあった様に、案外可愛い声で
「ふっふっふ、祐一ぃ、覚悟しろぉ〜」と、つぶやいている。
本気の復讐なら黙ってやれよ、全く。
俺の寝ている、顔のすぐ横に真琴が立つ。
「行け、火星人!」
だーかーらー、声を出すなよ。
「あ、あれっ!!あれれれっ、こらっ、あぅ〜っ」
何あわててんだ、コイツ?
「真琴ぉ、人が寝ているそばで、うるさいぞっ!!」
「ああっ、起きちゃった」
「とっくに起きてるって、それだけ枕もとで騒いでたら」
「あぅう〜〜〜、だって、だって、だって・・・」
「何だよ、真琴」
と、俺は枕もとのスタンドの電源を入れた。
「ぷぎゃははははは、何やってんだ、お前?」
「あぅう〜。この火星攻撃を食らわしてやるつもりだったのにぃ!」
「それ・・・タコじゃん」
「だから、火星人を祐一の顔に落として・・・」
「何?何だと!!」
「いやっ、だから、このタコの刺身を祐一と食べようと思って」
「それで?」
「誘いに来たら、タコが手首にしがみついて」
「顔に落としそこなったと?」
「そぉ〜なのよぉ、じゃなくて、一緒に食べようとしてぇ!!」
「あのなぁ、夜中に忍んで来なくても、食事の時に秋子さんに茹でてもらえよっ」
「あぅ〜、強行手段っ」
寒くてまだ体を布団に入れている俺に真琴が組み付いて来た。
「おい、タコが冷たい、よせっ。スミでも吐いたら真っ黒だぞ」
ぼとり、と話題のタコが床に落ちた。
一応、スミの問題は回避できたな。
「冷たいのを我慢して来たのにぃ、あなただけは許せないっ!」
真琴は俺の布団に手を突っ込んで来た。
「祐一も、この冷たさを味わいなさいよっ、あぅ〜」
「おい、よせ、十分そのタコに触れてた手がぬめって冷たいから」
「このっ、このっ、このっ、祐一っ、このっ」
「だから、もういいだろーがっ!!」
「ああっ祐一、対策してるっ。こんな所にナマコを用意してるじゃない!」
「こらっ、それはナマコじゃねぇっ!!」
「パジャマの下に隠してるわねっ。ずるいっ」
・・・・・・ぐにゃ・・・・・・
普通、パジャマ姿の可愛い女の子に握られると、大抵の健康な男子はこうなる。
つまり・・・まぁ、パンツの中のナマコみたいなモノが膨張するわけだな。
「祐一ぃ、何よこれ!」
うわぁ〜〜〜、真琴のヤツ、パジャマの上じゃなくて、俺のパンツの中に・・・
「これが、真琴対策用のナマコねっ、ええいっ!!」
こらーっ、俺のパジャマのズボンをずり下げてパンツを脱がすんじゃねぇっ!!
さっきまでタコをつかんでヌルヌルしてる手で、そーいうモノをさわるなぁ!!
くぅ〜、情けねぇ、勃っちまったぞ!
その時、何故だ、何故なんだか、廊下との出入り口が全開。
そこには、秋子さんがいた・・・うゎあ!!
「真琴ちゃんっ!祐一さんっ!何をやってるんですかっ!!」
「あああああ、秋子さんっ、真琴が俺にタコをぶつけに」
「えと、えとっ、祐一がナマコを用意して迎撃に」
「真琴ちゃんっ、後は私に任せて、タコを片付けなさい、いいわねっ?」
さて・・・
真琴はしぶしぶ、と言った様子でタコをつかまえて、部屋に戻って行った。
そして・・・情けない事になった。
下半身が臨戦体制になっていた姿を、事もあろうに秋子さんに目撃されてしまった。
あ〜ん、あこがれの、若いおばさんだったのに。俺、変態扱いされるかも・・・
と、ベッドの脇に秋子さんが膝をついて座った。
「祐一さん・・・ゴメンナサイね」
え?何?一体、どういう事?
「あなたの年頃の男の人が、女ばかりの中にいたら、そうよね・・・気づかないなんて」
うわぁあぁあぁ!秋子さんの手が、ナマコにぃィっ!!
「悪かったわ。祐一さん。もっと気配りをしてあげれば良かったのに」
違います、違います、そうじゃないんです。あ〜ん。ナマコをなで回さないでっ。
「だからと言って、名雪にこれを何とかしろとは言えないし・・・あら、ヌルついてる」
しなくて良いです、何ともしなくて良いです。勘違いなんです。
それは、タコを触った手のヌルヌルがついたのであって、相沢祐一は潔白ですっ!!
「それに・・・身元も知れない、真琴ちゃんだと、問題かもしれないわ」
「あ、あのぉ、秋子さん?」
「いいのよ、祐一さん。私の配慮が足りなかったわね」
いつもの笑顔なのが、逆に心配だが・・・
「真琴ちゃん、ナマコって言ってたわねぇ・・・」
は・・・はぁ・・・
「いいわ、秋子おばさんが、ナマコ、食べてあげるから」
ちょっと待ったぁ!!それ、近親相○!!あなた、私の血縁のおばさんでしょぉ?
「あ・・・秋子さん・・・」
「夫と以来、何年ぶりかしら・・・しかもこんなに立派なナマコ」
ナマコじゃありません。
「秋子さんっ、さっきの真琴のつけたタコのぬめりがまだついてるから、やめてぇ〜」
俺は、拒絶しようと、訳のわからない事を口走っていた。
「ん、イイわよ・・・そのヌメリ、舐めとってあげる」
うぎゃぁあぁあ、丸ごと、口に含まないでぇ〜〜〜。抵抗できないよ〜。
「んくっ、んくっ、ぴちゃ、ぴちゃっ、んっ、んっ、んくっ・・・じゅる、ぴちゃっ」
そういう音が続いた十分ほど後、ナマコは・・・かつて無い巨大化をしていた。
「秋子さん、もうそのへんで・・・」
に続けて「やめて下さい」と言おうとしたのだが・・・
「ええ、いいわよ、でも中で出しちゃだめよ、祐一さん」
は?今、何と?
「今から名雪に妹か弟が出来て、そのパパが祐一さんって事になったら困るもの」
すいません。その後、秋子さんが布団に入って来ました。しかも・・・下着姿で。
これで、何も起きなかったら、それこそ秋子さんに失礼、及び自分が情けない。
で・・・暖かい幸せに寝た夜と言って良いのだろーか、こういう一夜は?
相沢祐一、初めての経験が、事もあろうにこういう結末になりました。くぅう〜っ。
おかしい、こんな馬鹿な・・・忘れよう、忘れよう、忘れ・・・られる訳ねーぞっ!!
秋子さんは、あこがれの優しくてステキなおばさんなんだから。
あ、そうそう。もう、どうでもいい話といえばそうなんだけど、あのタコの事。
翌日の食事に茹でたタコの刺身が出ましたが、箸をつけたのは名雪と秋子さんだけでした。
「火星攻撃失敗」の思い出を持つ真琴と、ヌメリ取りを連想した俺は食べられませんでした。
終